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(論文リンク)
■ マニュアルメディスン研究会 機関誌掲載論文
(顔面ポイント・タッピング調整(TFP)とインジュリ・リコール・テクニック(IRT)による血圧の変動と左右の差について )


■ 日本カイロプラクティック徒手医学会第8回学術大会(平成18年9月)にて発表 の論文
(痛みの伝達経路と鎮痛メカニズムについての考察とIRTと顔面ポイント・タッピング調整(TFP)による痛みの軽減について)


■ 日本カイロプラクティック徒手医学会第9回学術大会(平成19年9月)にて発表 の論文
(固有感覚刺激による姿勢改善と運動能力の向上について)


■ 日本カイロプラクティック徒手医学会第11回学術大会(平成21年10月)発表 の論文抄録  (徒手療法による環境アレルギーとイップスへのアプローチ)

【論文1スタート】

■ マニュアルメディスン研究会 機関誌掲載論文

顔面ポイント・タッピング調整(TFP)と インジュリ・リコール・テクニック(IRT)による 血圧の変動と左右の差について

石田昭治

Blood Pressure Control Tapping Facial Point and Injury Recall Technique
Shoji ISHIDA

1. はじめに

 血圧とは、心臓の収縮によって押し出された血液が抹消の血管を押し広げる力(圧力)である。血圧は、心拍出量、血管の硬さ、心臓の収縮力に左右されるため、これらが変化すれば、血圧も変動する。
 血圧上昇に影響を与える因子として、ストレスや精神的過緊張による末梢血管の収縮、食塩の摂取過多、肥満、運動不足などでの循環血液量の増加、喫煙、飲酒、また加齢も動脈硬化などがある。また、血圧には日内変動があり、夜中に低く、日中は高めとなる。しかし一方では血圧調節機構が働き、血圧を一定範囲に保っている。
 一般に、さまざまな生活習慣病の誘引になるために治療が必要といわれている高血圧とは、収縮期血圧(最高血圧)が140mmHg以上、拡張期血圧(最低血圧)が90mmHg以上とされている。また、収縮期血圧が100mmHg以下は低血圧とされ、若年層に多く、ほとんどの場合、実害はないとされるが、急に起立したときに立ちくらみなどおこすことがある。
 また、血圧の高低もさることながら、さまざまな要因によると思われる著しい左右の血圧差による体調不良も見過ごせない。
 今回は、カイロプラクティックの治療、インジュリ・リコール・テクニック(IRT)と顔面ポイント・タッピング調整(TFP)によって、血圧をどれだけ正常値に戻せるか、また左右のアンバランスを改善できるかを検証してみた。

2. 方法

 腰痛や肩こりなどの症状を訴えて来院した患者から無作為に選んだ106名に対して、IRTとTPFの治療の前後に、左右の上腕部の血圧と心拍数を測定。
 測定には、テルモの電子血圧計P2000(アームインタイプ)を使用。この機器の特徴であろうか、腕の太い人、特に筋肉質の場合、数値が少し高い目に出る傾向がある。
 治療は、主訴に対しての治療(主にディバーシ・ファイド)をしつつ、血圧に働きかける治療として、グラベラ、肋骨調整、IRT、TPF。
 その左右差、前後の変動の検証。性別や、年齢、関連するもしくは重大な既往症との関連の検証。
※顔面ポイント・タッピング調整について
Acupressure Tapping Point Chart(前号参照)の各ポイントにセラピー・ローカリゼーションして、ポイント(経絡)に弱化が見られれば治療し、正常に戻す。
(ポイント)
   P1…大腸経 P2…胃経 P3…-膀胱経
   P4…胆経 P5…三焦経 P6…小腸経
   P7…督脈 P8…任脈

3. サンプル患者データ

   サンプル患者数 106人(100%)

        男性37人(34.9%)女性69人(65.1%)
              
年齢(才) 男性(人) 割合(%) 女性(人) 割合(%)
10代 1 2.7 0 0
20代 4 10.1 3 4.3
30代 7 18.9 11 15.9
40代 6 16.2 17 24.6
50代 8 21.6 13 18.8
60代 8 21.6 14 20.3
70代 3 8.1 9 13.0
80代0 0 2 2.9


4. 改善した事例(抜粋)
※以下、収縮期血圧…上 拡張期血圧…下と表記
 上段下線あり…治療前数値 下段…治療後数値
 血圧は単位…mmHg 心拍数は単位…回

男性(41歳)高血圧症 降圧剤服用中
左上 / 左下 心拍数 右上 / 右上 心拍数
118 / 60 68 137 / 61 70
通常矯正以外に肋骨調整(右回転)
123 / 66 69 119 / 66 68
※ 上の左右差が19から4に改善。

男性(43歳)腰椎椎間板ヘルニア 頚椎症
左上 / 左下 心拍数 右上 / 右下 心拍数
135 / 75 71 114 / 78 74
通常矯正以外にグラベラ
114 / 80 62 109 / 76 70
※ 上の左右差が21から5に改善。

男性(47歳)腰痛
左上 / 左下 心拍数 右上 / 右下 心拍数
131 / 79 93 146 / 94 87
通常矯正以外にグラベラ
130 / 83 91 134 / 90 86
※ 上下の左右差がそれぞれ15から4と7に改善。

男性(58歳)軽い脳梗塞 腰痛
左上 / 左下 心拍数 右上 / 右下 心拍数
151 / 86 78 175 / 104 83
通常矯正以外にグラベラ
147 / 82 74 152 / 79 82
※ 左右差が上24、下18がそれぞれ5と3に改善。
また右は上が23、下が25下がった。

女性(40歳)花粉症 腰痛 肩こり
左上 / 左下 心拍数 右上 / 右下 心拍数
94 / 63 65 119 / 67 68
通常矯正以外に肋骨調整(左回転)顔面タッピングポイント7
106 / 68 64 107 / 67 68
※ 上の左右差が25から1に改善。

女性(47歳)腰痛 肩こり
左上 / 左下 心拍数 右上 / 右下 心拍数
140 / 71 77 125 / 78 86
通常矯正以外にグラベラ
120 / 84 72 121 / 88 81
※ 上の左右差が15から1に改善。

女性(63歳)腰痛
左上 / 左下 心拍数 右上 / 右下 心拍数
113 / 67 69 99 / 58 71
通常の矯正以外にグラベラ
104 / 64 63 105 / 62 71
※ 上の左右差が14から1、下が9から2に改善。

女性(70歳)子宮筋腫手術 むち打ち症
左上 / 左下 心拍数 右上 / 右下 心拍数
118 / 71 69 102 / 62 71
通常の矯正以外にグラベラ
102 / 62 59 98 / 65 66
※ 上の左右差が16から4、下が9から3に改善。

女性(77歳)狭心症 高血圧症 腰痛
左上 / 左下 心拍数 右上 / 右下 心拍数
115 / 68 63 149 / 79 59
通常矯正以外に肋骨調整(右回転)
128 / 73 60 113 / 66 61
※ 左右差が上34、下11がそれぞれ15と7に改善。

論文続き (5〜)
5. 測定結果から算出したデータ

治療前後 血圧の左右差 平均値      【表3】
  男 性 女 性
 
(mmHg)

(mmHg)

(mmHg)

(mmHg)
収縮期血圧差平均値 9.43 8.30 9.35 7.13
拡張期血圧差平均値 7.08 5.62 5.64 5.20
\/ \/
収縮期血圧差 治療前後の差 1.13mmHg 2.22mmHg
拡張期血圧差 治療前後の差 1.46mmHg 0.44mmHg


治療前後 血圧左右差の変化 【表4】
  男性・人(%) 女性・人(%)
血圧左右差縮小10mmHg未満(a) 5(13.5) 15(21.7)
   〃   10〜19mmHg(b) 8(21.6) 12(30.4)
 〃   20mmHg以上(c) 0 3(4.3)
治療前後ともに正常範囲 (d) 7(18.9) 14(20.3)
一方は少し広がり(3mmHg以下)
もう一方は6mmHg以上縮小 (e)
2(5.4) 2(2.9)
※血圧左右差が改善

(a)+(b)+(c)+(e)⇒ 男性 15人 40.5%―【1】
女性 32人 46.4% ┘
【1】+(d) ⇒ 男性 22人/ 37人中 59.5%
女性 46人/ 69人中 66.7%


男女別 治療前後の血圧変動(収縮期血圧) 【表5-a】
  男性(%) 女性(%)
左右共に下がっている 18(48.6) 21(30.4)
一方が下がり、一方が同じ 3(8.1) 13(18.4)
一方が下がり一方が上がる、
と、左右とも変動なし
9(24.3) 20(29.0)
一方が上がり、一方は同じ 4(10.8) 8(11.6)
左右共に上がっている 3 (8.1) 7(18.9)
※測定誤差を考慮して±1は変動なし、とした。

男女別 治療前後の血圧変動(拡張期血圧) 【表5-b】
  男性(%) 女性(%)
左右共に下がっている 3 (8.1) 13(18.4)
一方が下がり、一方が同じ 5(13.5) 20(29.0)
一方が下がり一方が上がる、
と、左右とも変動なし
10(27.0) 21(30.4)
一方が上がり、一方は同じ 7(19.0) 10(14.5)
左右共に上がっている 12(32.4) 5 (7.2)
※測定誤差を考慮して±1は変動なし、とした。


6.中間考察

左右差の平均値で、収縮期1.13〜2.23mmHg、拡張期1.46〜0.44mmHg縮まった。【表3】
また、治療前後の左右差が改善された割合が、男性40.5%、女性46.4%であり、最初から異常なしで治療後もやはり異常ない事例とあわせると、男性59.5%、女性66.7%となった。【表4】
また、血圧の上がり下がりについては、収縮期血圧についての改善が男女共に顕著に表れた。ただし、【表5-a】【表5-b】に示されるとおり、拡張期の血圧、特に男性については、治療後、上がってしまっている割合が非常に高い。
それらを解明するために、数人の、左右差が逆に大きくなった患者や、数値の上がり方が大きい患者を調べてみると、その多くは、心臓に重大な既往症があるか、降圧剤、または精神安定剤、ホルモン剤を服用中であった。また特に、重大な既往症も服用中の薬物もないが、精神的に大きなストレスを抱えている場合も、思うように血圧コントロール出来にくいようだった。また、女性で治療後、左右差が大きくなったり、数値が上がっている患者の中には、低血圧ぎみの患者も若干含まれている。(治療前の計測で左右どちらかの収縮期血圧が100mmHg未満…10人)
次の段階として、結果に関するさらに細かいデータを集めてみた。

7. 問題解明のためのさらに細かいデータ

治療後の血圧左右差が10mmHg以上だった患者について
治療前の収縮期、拡張期どちらか、また両方の左右差              
10〜14mmHg 15mmHg以上
男性(37人) 7人 (ア) 13人 (イ)
女性(69人) 22人 (ウ) 15人 (エ)
前記症例の治療後の収縮期、拡張期どちらか、また両方の左右差       
10〜14mmHg 15mmHg以上
(ア)の症例 1人(a) 2人(b)
(イ)の症例 1人(c) 4人(d)
(ウ)の症例 3人(e) 5人(f)
(エ)の症例 3人(g) 2人(h)
治療前は、左右差10mmHg未満だったが、治療後の差10〜14mmHgになった 男性 5人(i) 女性9人(k) 15mmHg以上になった 男性1人(j) 女性3人(l)
上記症例の年齢、既往症(既)、現在の症状(症)、薬物の服用(薬)、その他の特記事項(特)
※ 血圧コントロールに関係しているのではないかと思われる事項に下線をひいた。
(a) ・21歳 (症)腰痛 (特)職場の問題で精神的なストレスあり(数ヵ月後、退職)
(b) ・61歳 (特)妻の介護疲れ、精神的ストレス
・72歳 (既)高血圧症 (薬)降圧剤
(c)・57歳 (既)3年前に胃癌 (症)腰痛
(d)・40歳 (症)腰痛 (薬)精神安定剤
  ・43歳 (既)スポーツ後遺症からか頚椎の不具合(症)肩こり、肩の痛み、膝痛
  ・70歳 (既)腰椎狭窄症 (特)最近生活環境の変化あり(会社を退職)
  ・71歳 (既)2ヵ月前に食道・胃癌手術
 (薬)抗がん剤
(e)・48歳 (既)高血圧症 
(薬)降圧剤、ホルモン剤
  ・63歳 (既)不整脈 (症)腰痛
・58歳 (症)腰痛 (特)夫が癌で入退院を繰り 返しており精神的ストレスあり
(夫は3ヵ月後に死亡)
(f)・39歳 (特)低血圧
・ 43歳 (既)卵巣のう腫、子宮頸癌 (症)肩 こり、下腹部痛 (特)定期的な癌検診 に対する不安感、精神的ストレス、 低血圧ぎみ
  ・48歳 (症)坐骨神経痛 
  ・55歳 (症)腰痛、肩こり
  ・58歳 (既)高血圧症 (薬)降圧剤
(g)・32歳 (症)肩こり、疲れ
  ・45歳 (既)子宮筋腫 (症)腰痛
  ・82歳 (既)狭心症 (特)小柄細腕のため、 数値不正確の可能性あり (薬)心臓の薬
(h)・41歳 (既)卵巣腫瘍 (症)肩こり
  ・77歳 (既)狭心症、高血圧症、C型肝炎
      (薬)降圧剤
(i)・30歳 (症)腰痛
  ・39歳 (既)斜頚の手術(26年前)
・ 63歳 (既)頚椎硬化症
・ 64歳 (特)低血圧ぎみ
・ 67歳 (症)腰痛
(j)・58歳  (既)心臓僧帽弁手術、高血圧症
(薬)降圧剤
(k)・30歳 (特)低血圧ぎみ
  ・45歳 (既)ひどいアトピー性皮膚炎
 (薬)ステロイド(数年前にやめた)
・ 48歳 (症)肩こり
・ 54歳 (特)低血圧ぎみ
・ 59歳 (症)腱鞘炎 肩こり
・ 60歳 (既)子宮筋腫 血糖値高め
・ 62歳 (既)糖尿病 (薬)インシュリン注射
・ 63歳 (特)低血圧ぎみ
・ 63歳 (薬)抗うつ剤
(l)・40歳  (症)腰痛
  ・47歳  (症)腰痛 肩こり
  ・76歳  (症)腰痛
 (特)実兄の介護と死亡後からの不調

以上39人を下線を引いた部分別に分類
・降圧剤服用中          5人
・抗うつ剤、精神安定剤服用中   2人
・ホルモン剤服用中(過去も含む)   1人
・既往症に癌、卵巣のう腫、子宮筋腫  6人
・心臓または首の手術・疾患      5人
・精神的に大きなストレス     5人
・低血圧      5人
・糖尿       1人

・下線を引くべき事項が見当たらない  9人
そのうち閾値が特に高い人……4人
〃   特に低い人……3人

8. 結論

   AKの理論を主に用いたカイロプラクティックの治療によって、血圧の左右の差が縮まると治療の有効性を証明できた。  また、高すぎる血圧を下げる効果にも、一定の有効性を証明できた。
 ただし、心臓や頚椎に不具合がある場合や血圧降下剤等の薬剤を服用中の場合には、効果を発揮しない場合や数値を悪化させる場合があった。また、少数ではあるが、身体的には特に血圧に関係する要因は見当たらなくても、精神的な要因や神経的な要因により、有効でない場合もあった。
 よって、逆に言うと、血圧に左右の差があり、調整により改善できないときは、内科的、もしくは精神的に何らかの不具合がある可能性が高いと考えられる。
 続き〜9
9. 問題点と今後の課題

 その他の要因として、動脈系(特に頚)の不正、内臓の弱化、それに栄養素(日常、特に前日の食事内容、塩分濃度など)、また精神的なストレス(主にうつ状態)も関連しているのではないか、という疑念が、最近の治療を通して出てきているので、今後は、これらも今回の要素の関連性をも考慮して、治療結果の継続性も考慮しながら、個人を数ヶ月にわたって追跡しながらデータをとってみようと思っている。
 また、今回は、数値をとっただけで検証していない心拍数との関連も検証していきたい。

参考文献
1) 健康の地図帳 監修:大久保昭行 講談社刊 
2) Stop Your Pain Now! Walter H. Schmitt, D.C.
3) Applied Kinesiology Synopsis デービッドS.ウォルサーD.C.著 科学新聞社刊

 

【論文2スタート】

■ 日本カイロプラクティック徒手医学会第8回学術大会(平成18年9月)にて発表 の論文

痛みの伝達経路と鎮痛メカニズムについての考察とIRTと顔面ポイント・タッピング調整(TFP)による痛みの軽減について*

石田昭治*1

Consideration about channels of communication of pain and painkilling mechanism and mitigation of pain by “Injury Recall Technique” and “Tapping Facial Point Technique”.
Shoji ISHIDA

Abstract
( 痛みの区分とその特性、そのコントロールシステムと伝達の抑制についての考察。
骨格に対してのアジャストメントや筋肉に対してのモビリゼーション、ソフトティッシュー・テクニックに加えて用いる、神経や精神的なダメージに対して働きかけるテクニックとして、IRTとTFPの有効性を、120名の患者に対して臨床を通じて検証した。
個別の症例として、肩関節に痛みがある患者、足の打撲の患者、手指の突き指の患者の痛みの軽減成功例を紹介。)

Keywords : Injury Recall Technique Tapping Facial Point Technique Pain killing mechanism

1. 痛みとは
 国際疼痛研究委員会の定義では、“痛みとは組織障害やその他(体性感覚野)に関連した侵害受容器の活性化による不快な感覚と感情反応”とされている1)。
 痛みは人々にとって不快であり生活に悪影響を与えるため、我々臨床家の治療を求めてくる人々の主訴として圧倒的に多い。しかしながら、痛みの“プラスの面”としては身体が恒久的なダメージを受けるのを避けるための警告信号としての役割があり、これによって更なる疼痛を引き起こす活動を止めることも可能になる。
 また痛みは主観的なものではあるが、多くの患者は痛みがどれくらい減ったかで治療の成否を判断するし、臨床家も治療の有効性を判断することが出来る。

2. 痛みの始まり 痛みの区分とその特性
 痛みはどのようにして生じるのだろうか?神経学的に痛みを感じるのは侵害受容器と呼ばれる自由神経終末であるが、これは主に皮膚、血管、神経線維、関節、骨膜、頭蓋内の大脳鎌や小脳鎌などに見られる。この侵害受容器が発する信号が神経系を伝わり、大脳の体性感覚野に至ると人は痛みを感じる(信号を痛みと解釈する)。
 侵害受容器を活性化させる刺激を分類すれば温熱刺激、力学的刺激、化学的刺激となるが、実際の疼痛が一つ以上の原因から生じることは珍しいことではない。
 温熱刺激に対しては0〜30℃では寒冷温度受容器が反応し、30〜45℃では温暖温度受容器が反応するが、15℃以下の冷たさや45℃以上の温熱といった有害刺激に対しては、自由神経終末である温度受容器が反応し冷覚疼痛や温覚疼痛を引き起こす。
 また力学的刺激には物理的微細損傷や怪我、腫脹、腫瘍、椎間板突出、組織の奇形、伸展などがあり、機械受容器を活性化させ疼痛を引き起こす。この力学的刺激による痛みの例としては筋痙縮が挙げられる。
 そのほかにも怪我などによる組織損傷に伴う炎症はプロスタグランジンやヒスタミンなどを放出し侵害受容器を化学的に刺激し痛みを起す。また筋肉疲労によって生じた乳酸などの副生成物も化学的刺激によって疼痛を引き起こす。虚血中に起こる嫌気性代謝(酸素を使わない代謝)の結果として組織中に乳酸が大量に蓄積する虚血性の痛みは化学的刺激の典型的な例といえる。

3. 痛みの種類と強さ
 痛みの強さは細菌感染、組織虚血、組織挫傷などの組織損傷度とも関連が深く、疼くような、と表現される遅い痛みは通常、組織破壊に関係しており、時間経過とともに痛みが増す傾向があるため長期にわたる耐え難い苦痛につながる可能性がある。
 しかしながら、幻肢痛などの組織損傷を伴わない痛みがあることからも明らかなように、痛みの強さは組織損傷の程度とは必ずしも比例しない。また、痛覚は同一の受容器が活性化された場合でも、その反応には大きな個人差がある。それは痛みというものが、個人が認知する主観的な感覚であるため、刺激の種類や強さ以上に、不安、予知などの患者の精神状態や過去の経験などの影響が大きいためだと思われる。
 言い換えれば、痛覚には受容器の活性化と直接関係がある感覚的−識別的要素と、痛覚を引き起こす刺激と直接にはあまり関係ない動機的−情動的要素の2種類があると考えられる2)。

4. 脳と痛覚
 侵害受容器からの情報が痛覚上行路を通って脳に伝わり、最終的に大脳の体性感覚野に伝わることで人は痛みを知覚するが、痛覚に関与する脳の部位には、前頭前皮質、体性感覚皮質、視床下部の脳室周囲核、中脳の水道周囲灰白質、延髄網様体の大縫線核、三叉神経脊髄路核がある。
 慢性痛では視床と皮質回路に変化が見られ、PETによる画像研究によれば帯状回と島皮質が侵害受容器の反応に関係している。この帯状回は辺縁系の一部であり痛みの感情工程に関係していると考えられている。島皮質は内側視床核と腹側と後内側視床核の直接投射を受ける。島皮質は通常反応に必要な感覚と感情、認識要素を統合していると考えられている3)。

5. 内臓関連痛について
 関連痛とは、刺激された侵害受容器の部位とは異なる部位に痛みを感じることをいうが、内臓の侵害受容器が刺激されたのを、皮膚、筋肉、骨の痛みとして感じることを内臓関連痛という。
 内臓痛覚は、局在性のはっきりしない疼くような痛みが特徴で、胸膜、腹膜、消化管、膀胱などからの痛みで化学的刺激によることが多い。この局在性の乏しさは、内臓の侵害受容器の密度が皮膚などの侵害受容器の密度より低いためである。
 内臓の受容器は侵害受容器と生理学的受容器に分けられる。生理学的受容器には、急速順応性機械受容器と緩徐順応性受容器、圧受容器、化学受容器、浸透圧受容器、温度受容器があり、侵害受容器は自由神経終末である4)。

6. 疼痛コントロールシステム
 痛みに強い感受性を持つ(過敏症)人がいる一方で、痛みに対してより高い耐性をもつ人がいる。これは自然の疼痛コントロールメカニズムによって変わってくると考えられる。疼痛コントロールにおいて重要な神経伝達物質には、脊髄レベルで疼痛減少作用のあるセロトニンとエンケファリンのほかにも、脳内で自然に生じるアヘン様物質―エンドルフィンとエンケファリン−がある。

7.治療における痛覚伝達抑制
 疼痛抑制理論としてよく知られているゲートコントロール理論は関門制御ともいい、上行経路の一部に他からの制御が働いて、上行する興奮の通過を関門で阻止する制御機構をいう5)。同じ皮節からの機械受容性の1次求心性線維は独自の2次ニューロンを支配するが、同時に痛覚性の2次ニューロンに投射する抑制性介在ニューロンにも終末する。そのため機械受容性の求心性線維が活性化されると抑制性介在ニューロンも活性化するので、痛覚路での伝達を抑制することで痛みを軽減する。
 このゲートコントロール・メカニズムは、臨床で用いられるさまざまな治療手段においても見ることが出来る。
 人はよく、傷害を受けたときに無意識に傷害部位をさすり痛みを緩和しようとする。これは皮膚への触覚刺激によって疼痛が遮断されるためだが、神経学的には末梢触覚受容器由来の太いA-β感覚線維を刺激することによって痛覚信号の伝達経路を抑制している。
 皮膚刺激によるA-α求心性線維の興奮は脊髄後角の第W板の抑制性介在ニューロンを刺激し、第W板の抑制性介在ニューロンは第T板と第U板の求心性線維を抑制し、A-σ線維とC線維の刺激が脊髄視床路に伝わるのを抑制する。また脊髄後角の第W板のニューロンは筋や関節からの大直径求心性線維の入力を受ける場所で非侵害性の関節マニュピレーションにも反応する。
 すなわち関節モビリゼーションやカイロプラクティックやオステオパシーにおけるスラスト・テクニック(HVLA=高速低振幅テクニック)などでも、ゲートコントロール・メカニズムが作用している。この場合は関節マニュピレーションによって、筋や腱に関連するA-α線維やA-β線維を刺激する。
 針灸などでも疼痛抑制理論として、ゲートコントロールが用いられるようだが、中医学などで伝統的に用いられている経絡や経穴も高い疼痛抑制効果がみられる。アプライド・キネシオロジーの中にも経絡や経穴を用いたテクニックが伝えられている。
 ただし、経絡テクニックの全てがゲートコントロール理論で説明できるわけではなく、筆者が臨床現場でよく用いるアプライド・キネシオロジーの経絡テクニックに含まれるB & EテクニックやTFPなどでは頭部(多くは顔面)の経穴をタッピング(軽く叩く)することで、優れた鎮痛効果を現わしている。この場合は、ゲートコントロール理論ではなく、タッピングによる振動刺激による脳(特に癌の疼痛抑制でも用いられる前頭前野)の活性化に伴なう血流増加を含む中枢系鎮痛メカニズムが作用しているように思える。

8. IRTとTFPについて
  IRTは、過去の怪我や傷害の記憶を呼び起こし距腿関節と環椎後頭関節に刺激を与えることで、傷害の歴史や記憶を消すことにより筋肉の記憶を消滅させ、痛みを軽減させるテクニックである。また、有毒な化学物質、食物、栄養素による神経学的統合不全(神経の錯乱、スイッチング)を修正して、痛みを軽減させる。
 またTFPは、現代の神経学と針治療の原理を組み合わせ、顔面の経穴を利用した痛みの軽減テクニックであり、その使用は、負傷後すぐに行うもの、慢性的な痛み、感情的ストレスの軽減等に分けられる。そして、痛みの種類によってIPR、LQM、TAT等の治療法がある。
 障害のある部位、痛みのある部位をペイン・ロケーター・チャートで照らし合わせ、関連するタッピング・ポイントを刺激する6)。

図1: TFPタッピングポイント

図2: ペイン・ロケーター・チャート

 9. 方法
 慢性的あるいは、急性の痛みを持つ患者、耳鳴りやめまいなどの神経系の悩みを持つ患者、精神的なストレスを抱えている患者に対して、アジャスト可能な患者にはアジャストを施し、その後、IRTとTFPを使用。
 例えば、頚椎にサブラクセーションや過去の障害の記憶があるときは、IRTでは、仰臥位で頚椎と足を同じ方向に曲げさせ、身体全体で、Cカーブ、Dカーブをつくり、TL(セラピーローカリゼーションの略で筋力テストの一種)を行い、治療すべき箇所を特定する。
 思うような効果が出ない場合は、スイッチングや内臓反射を利用した施術を行った。
(実際の治療では、身体呼吸法等を加えたアレンジの技法となっている)

【論文3スタート】

■ 日本カイロプラクティック徒手医学会第9回学術大会(平成19年9月)にて発表 の論文

固有感覚刺激による姿勢改善と運動能力の向上について*

石田昭治

About posture improvement by the peculiar sense stimulation and the improvement of the athletic capability
Shoji ISHIDA

Abstract
高校軟式野球チームの選手達を被験者とし、アプライド・キネシオロジー・テクニック(AK)および日本古来の正体術を使い、身体のバランスを整えたり、手技によって関節に刺激を与え、その前後の体重バランスと走塁タイムを計測する実験を行なった。1回目はAKテクニックの刺激のみを使い実験した。2回目の実験では、それに加えて、体重バランスが大きく崩れている被験者に対して正体術を行った。 実験結果を分析したところ、走塁タイムの改善には体重バランス差、特に左可重が関係しているが、それ以外に小脳への刺激や全身のバランスが関係していると考察される。

Applied Kinesiology A center of gravity 正体術 An ankle Run time

1. 初めに
 人は、現在、長い進化の道のりを経て、四足歩行から、左右2本の足で立ち二足歩行している(1)。歩行に対して、構造的には、骨盤の回旋、骨盤の傾き、膝の屈曲と動き、足首の動き、また内因的には、小脳、内耳前庭系、脊髄の問題(2)、ひいては、脳脊髄液や血液の流れのバランスによって、影響を受ける。そして、2つの視点を持ち、眼運動系の筋肉と後頭下筋を使ってものを水平に見ることが出来、各固有受容器からの情報を得て、脳幹や小脳の前庭系で統合され、身体全体のバランスをとっている。しかしその体重は、必ずしも、いつも左右の両足に均等にかかっているとは限らない。重心のアンバランスが起こっていることがある。とすると、いろいろなスポーツをするとき、そのことによって、せっかく本人が日々のトレーニングや練習で培った筋力やパフォーマンスの技量を、充分に発揮できていないということはないだろうか。  もちろん、その競技をするために必要で特別な筋肉をつける、などのアンバランスは別にして、それ以外の場合、そのアンバランスを正すことによって、パフォーマンスの向上、記録の更新の可能性があると考えられる。
 カイロプラクティックのテクニックのひとつであるAK(Applied Kinesiology)に足関節(距骨)を四指で挟み少し牽引をかけながら距腿関節に刺激を与えるテクニック3)がある。足関節に関わる固定受容器からの固有感覚刺激の情報を脊髄小脳路 (Spinocerebellar pathway to cerebellum(3)) を通じて小脳に伝え、静的、動的バランスを取る機能を利用したテクニックである。
 また、日本古来の正体術(高橋迪雄式)4)に全身の歪みを治すテクニックがある。人の骨格の歪みを見つけ出すポイントとして、頭蓋、肩甲骨、骨盤に着目し、それらの歪みを本人の顔の向き、四肢の位置と自重を利用して、正していく。これも同じく、固定受容器からの固有感覚刺激の情報を脊髄小脳路を通じて小脳に伝え、全身のバランスを取る機能を利用したテクニックである。
 これらのテクニックを用いて、左右の体重バランスをどれだけ整えられるか、また、それによってスポーツのパフォーマンスはどのように変化するかを検証してみた。

2. 実験1(1アジャストメントによる刺激)
対象者: 軟式野球部に所属する16歳から17歳の筋骨格系に障害のない男子高校生24人。
刺激部位: 足関節
刺激方法: カイロプラクティックのAKテクニック(距骨を四指で挟み少し牽引をかけながら距腿関節に刺激)
実験方法:
@ 野球の塁間、本塁をスタート地点として、1塁を経由して2塁まで(180フィート:54.862m)を走り、そのタイムを測定(写真1)。
A 体重計を横に2台並べ、左右の足を左右の体重計に片方ずつ乗せ、顔を正面に向けた直立姿勢で、それぞれの足にかかっている体重バランス測定を行う(写真2)。
B 荷重少側の足関節に、1アジャストメントの刺激を与える(写真3)。
C 再度、Aと同じ要領で、体重測定を行なう。
D @と同じ要領で走り、そのタイムを測定する。

(写真1)
本塁〜2塁へ走行
(写真2)
重心の測定
(写真3)
足関節への刺激

3. 実験1の結果
 刺激前(1回目)と刺激後(2回目)における各タイムと左右足の各体重およびその差を検討した。
 24名の走塁タイムの平均(x±SD)は、刺激前が8.28±0.48秒で、刺激後が8.24±0.54秒であった。刺激後のタイムが平均で0.04秒早くなったが、統計的には有意差はなかった(対応のあるt検定)。
 また、刺激前の走行タイムと各左右足の体重差M±SDを集団の抽出標本とみなし、刺激後との差を検定したが有意差は無かった。
 各人の1回目と2回目のそれぞれのタイムについて相関関係を調べると相関係数r=0.897で強い相関がみられた。これを単回帰直線で調べるとy=1.007110x−0.09854となった(図1)。
 24名中走行タイムと左右の足にかかる体重バランスの差で、共に改善が見られたのは6名(25%)、タイムのみ改善したのは7名(29%)、体重バランスのみ改善したのは5名(21%)、タイムと体重バランス差共に悪くなったのは4名(17%)、タイムが悪くなって体重バランス差に変化無しと、体重バランス差が悪くなってタイム変化無しが各1名(各4%)であった。(図2)(図3)
 さらに分析すると、タイムと体重バランス差共によくなった例については、左加重、右加重はそのままで体重バランス差が改善した各2名ずつと右加重から左右均等になった2名の合計6名であった。タイムのみの改善例については、右加重から左加重に変わった2名、右加重がさらに強まった2名、左右均等から右加重に変わった1名、加重に変化なしの2名、の合計7名であった。体重バランス差のみの改善例は、左加重のままであるが体重バランス差が改善した4名と、左加重から均等化した1名の合計5名であった。タイムと体重バランス差共に改善した例と足のみの改善例には走行タイムに有意に差が見られた(p<0.02)。また走行タイムのみの改善例では有意傾向であった(p<0.09)。このことにより、体重計を2台使用しているため、相当の機械的誤差は多少なりとも生じている可能性は否定できないが、走行タイム改善には足の体重バランス差がおおきく関与している可能性が示された。
 体重バランスは、刺激前の差が大きいほど、刺激後の改善率が高い傾向であった。刺激前の体重バランス差が小さい、もしくは加重差無しの者は、刺激を与えると逆に加重差が開く場合もみられた。(表1)

図1
刺激前と後のタイムにおける単回帰直線
図2
実験1 刺激前と後の左右の足にかかる体重バランス差の比率の単回帰直線
 
図3
実験1 結果
 

4. 実験1の結果を踏まえて
 足関節からの刺激は、重心のバランスに影響を与え、スポーツのパフォーマンスを向上させるのに、有効な施術であることが推測されたが、筆者が日ごろの臨床を通して感じている結果と比べ、いまひとつ統計的な有意差を示すことが出来なかったので、後日、体のバランスをとることを中心に考えた別の施術を加えて、同じ実験を再度、行った。

5. 実験2(正体術の刺激)
対象者: 軟式野球部に所属する16歳から17歳の筋骨格系に障害のない男子高校生33人。
刺激部位: 足関節と頭蓋、肩甲骨、骨盤
刺激方法:
@ 野球の塁間、本塁をスタート地点として、1塁を経由して2塁まで(180フィート:54.862m)を走り、そのタイムを測定(写真1)。※
A 体重計を横に2台並べ、左右の足を片方ずつ乗せてもらい、顔を正面に向けた直立姿勢で、それぞれの足にかかっている体重を量る(写真2)。
B 荷重少側の足関節に、1アジャストの刺激を与える(写真3)。
さらに体重測定の際に体重差6kg超の者※※のみ、日本古来の正体術を用い、頭蓋、肩甲骨、骨盤の歪みを検査し、本人の顔の向き、四肢の位置と自重を利用して、骨格の歪みを正す。(写真4)
C 再度、Aと同じ要領で、体重バランス測定を行なった。
D @と同じ要領で走り、そのタイムを測定した。

※ 1度走行することによる体重バランスへの影響よりも、短時間のうちに2度続けて走行することによる疲労による影響を考え、実験の順序をこのようにした。この実験の@終了後D開始までの時間は、約20分であった。

※※ 実験1、2の結果より、平均±標準偏差(M±SD、6.4kg=6kg)を刺激による改善の基準値とした。
(写真4)正体術で歪みを正す

6. 実験2の結果
 33名の走塁タイムの平均(x±SD)は、刺激前が8.71±0.35秒で、刺激後が8.63±0.34秒であった。刺激後のタイムが平均で0.08秒早くなり、統計的には有意差があった(対応のあるt検定 p<0.05)。各人の1回目と2回目のそれぞれのタイムについて相関関係を調べると相関係数r=0.807で強い相関があった。(図4)
 左右の体重バランスについて、左足の刺激前50.1%であったものから、刺激後50.9%になっており、体重バランス差6kg超のグループでの検討を行なったところ、左足の刺激前49.8%から、刺激後51.4%と左加重に傾向が更に強まった。(図5)
 33名中、走行タイムと左右の足にかかる体重バランスの差共に改善されたのは16名(49%)で、タイムのみ改善したのは5名(15%)、体重バランスの差のみ改善したのは3名(9%)であり、走行タイムと体重バランス差共に悪くなったのは6名(18%)であった。(図6)
 走行タイムと体重バランス差共に改善された16名中、右加重→左加重になった5名、左加重→右加重になった6名、左加重のまま体重バランス差が改善した2名、左加重→均等に変化した1名、均等のまま体重バランス差変化なしの2名であった。タイムのみ改善し体重バランス差は悪くなったが加重が変化した5名(右加重→左加重2例、左加重→右可重1名、均等→右可重1名、均等→左可重1名)となった。体重バランス差のみ改善した5名は右可重→左可重2名、左可重→右可重1名、左可重のまま体重バランス差改善1名であった。
 実験1の結果と同じく、体重バランスの左右差が大きいほど、体重バランス差の改善率は高い傾向にあった。
 走行タイムと体重バランス差共に改善した例と足のみの改善例には走行タイムに有意に差が見られた(p<0.01)。また走行タイムのみの改善例では有意傾向であった(p<0.07)。
 体重バランス差6kg超のグループ14名中12名において体重バランス差の改善がみられた。内訳としては、9名が走行タイムと足の体重バランス差の改善がみられ、3名においては体重バランス差のみの改善、1名は走行タイムのみの改善がみられた。走行タイムにも有意差が認められた(p<0.02)。しかし、6kg未満の群では走行タイムに有意差が見られなかった。しかし、その中でも足の体重バランス差の改善が見られた例では走行タイムに有意傾向がみられた(p<0.06)
 また、最初(33名)右可重中、刺激後左可重に転じたもの13名中に刺激後、体重バランスの左右差が改善されたもの7名中走行タイムが改善したのは5名であり、極端な左可重のもの※5名と極端な右可重のもの※7名の合計12名中で、刺激後、体重バランスの左右差が改善されたもの(9名)に、走行タイムの改善したものが多かった( 7名)。
※ 標準偏差値1回目0.501±0.069=0.570%以上と0.432%以下

図4
実験2 刺激前と後のタイムにおける単回帰直線
図5
実験2刺激前と後の体重バランス比率の単回帰直線
 
図6
実験2 結果
 

7. 考察
 あまりに大きな体重バランスの不均衡は、全身の骨格、筋肉、脳脊髄液の流れにも関わり、内臓の不調等を招く場合もある。とはいえ、必ずしも左右の足に全体重の50%ずつかかっているのが、本当によいのか。実際、今回の実験結果を分析する上で、刺激後のタイムがアップしている者と、体重バランス差が改善している者とは共通している、という仮説で分析を始めたが、分析を進めるうちに、それだけでは説明がつかない問題にぶつかった。
 実験1,2の結果により左右の足の体重バランス差が左加重に変化した方が走行タイムの改善者が多い傾向にあった。これは、今回の実験でトラックを走行する際左加重で走行するため、左に加重がかかった方が走りやすかったためではないかと示唆される。また、陸上競技のトラックの回り方について、IAAF(国際陸上競技連盟)が取り決めた国際ルールブックに「レフトハンド インサイド=左手を内側に」と1913年に書かれている。その理由は、科学的な証明はなされていないが、心臓のある左に若干多くの体重が乗っている方が正常であり、早く走れるからとも言われる。  当初の左足にかかる体重バランスの比率は、実験1で50.4%、実験2で50.1%であったが、刺激後、実験1で49.8%、実験2で50.9%になっていた。タイムの改善は、実験1で平均0.04秒で8.24±0.54秒であり、実験2で平均0.08秒で8.63±0.34であり、実験2の方が、より改善していた。その差は、実験2では、最初の左右の体重バランス測定時に6kg超の者に正体術を施したことで、全身のバランスを改善したことによる可能性が示唆された。
 実験1、2よりタイムのみ改善した例では右加重に変じていたり、体重バランス差が大きくなっているにもかかわらず、走行タイムの改善が見られていた。これは、実際の根拠となる測定が不可能なため、足関節に刺激を加えることで、脳内の神経活性が高まり、体内刺激伝達がよくなり、結果走行タイムの改善につながった可能性が推察される。しかし、実験1,2共に走行タイムと体重バランス差共に改善した例と足のみの改善例には走行タイムに有意に差が見られていたため、足関節を刺激することは走行タイムの改善に効果があると考える。今後の研究により明らかにしたい。
 体重バランス差が大きくなった例(実験1は10名、実験2は11名)で、共に走行タイムは遅くなった例がある(実験1は4名(40%)、実験2は6名(66%))。また、実験2では、最初の体重比率が50%(両足の体重バランス差なし)の5人は、体重バランスにおいては5人中2人が刺激後変化なしで、3人は、体重バランスが崩れたという結果になった。しかし、内4人は刺激後タイムがアップしていた。これは、全身のどこか、もしくは動態作用時にバランスの不均衡があり、それが長期間に及ぶと、その部分を身体の他部分で無意識のうちに補助、もしくは補正している場合や、日常生活に支障のないようにアンバランスである身体の均衡をとっている場合がある。  このような場合、足関節への刺激や正体刺激によりその微妙なバランスが一時的に崩れてしまい、結果、走行タイムに影響したものと推察された。
 実験2で6kg超の例に正体刺激を行なった結果、14例中12例において、足の体重バランス差と走行タイム共に改善が見られた。このことにより、正体刺激を行なったことでより身体のバランスを改善でき、体内バランスや神経伝達にも効果をもたらし、結果、走行タイムのUPにつながった可能性が示唆された。
 さらに、現場で生徒たちの走塁を観察すると、刺激後に走塁タイムの改善が見られたものは、おおむね走行中のフォームが改善されていた。
 これらにより、走塁タイムの改善には体重バランス(主に左加重)が関係しているが、それ以外に小脳への刺激や全身のバランスが関係していると考察される。

8. 結び
 下記は、京都大学高等教育研究開発推進センターの小田伸午先生の言葉である。
 「左と右は別世界。これは感覚の世界から出た言葉です。『からだから出た言葉』とも言えます。頭脳知による研究の世界から出てきた知見ではありません。科学は非論理的な主観から始まります。」
 日ごろの臨床を通じて、日々体感している徒手医学療法の成果は現実のものであるが、いくら臨床を積み重ねて解剖学や神経学を勉強しても、実際の臨床の現場では、使用するテクニックの選択やその力加減は、試行錯誤の連続である。そしてその中で体得した経験値は、現代の医科学で立証しようとしても、なかなか教科書どおりにはいかないこともある。しかしそれは、一定の法則が無いからではなく、未だ立証されていないからだという思いで、これからも検証を重ねていき、徒手医学療法の発展につなげていきたいと考えている。
 また、今回の実験を検証する中で、運動能力を向上させるために、前出の小田先生が推奨する身体運動上達法などに、脳神経の刺激を行うなど、ウォーミングアップに組み込む方法を工夫するなど、その他いろいろな方法を模索していきたい。

9. 参考文献
1) 大場弘D.C.著 『マニュアルメディスンの基礎』徒手医学研究所 P.100 2001
2) 大久保昭行監修『健康の地図帳』P.27 講談社 1999
3) Seug Won Lee M.D. D.C.『AK Foot Seminar』ICAK-Korea資料 P.2 2004
4) 高橋迪雄口述『正體術矯正法』日本正體術協会 P.6 昭和2年
(表1)
元データの表
* 日本カイロプラクティック徒手医学会第9回学術大会(平成19年9月)にて一部発表
*1 石田カイロプラクティックオフィス 〒650-0012 神戸市中央区北長狭通3-6-4 SKビル501


【論文4スタート】

■ 日本カイロプラクティック徒手医学会第11回学術大会       (平成21年10月)発表の論文抄録

徒手療法による環境アレルギーとイップスへのアプローチ

石田昭治

Approach to Environmental allergy and Yips by Chiropractic manipulation
Shoji ISHIDA

1. はじめに

 アレルギーとは、生体の自己保存のための防御機能のひとつであり、本来、生体保護のために作用すべきものであるが、ときに生体にとって不利に作用することがある。
このアレルギー反応には、食飼が原因で起こる食物アレルギー、花粉や化学薬品が原因の環境アレルギー、それと、過去の精神的な過剰なストレスやプレッシャーによって起こるものがある。パニック障害やPTSD(心的外傷後ストレス障害)はそのひとつである。
また、神経戦的な色合いが濃いスポーツをするときにイップスという形で起こる場合がある。
AK(Applied Kinesiology :以下AKと記述)のIRT(Injury Recall Technique :以下IRTと記述)では、身体に残った過去の傷害記憶を除去することで症状を軽減するが、同じく体の中にコード化された記憶としてのアレルギー反応の除去ということで、IRTを少しアレンジしたアレルギー除去テクニックを用い、環境アレルギーの軽減とイップスの除去を試みた。

2. 脳科学とAKにおけるストレスと記憶

  扁桃体から、腹側被蓋野、青斑核、外背側被蓋野にドーパミン、ノルアドレナリンなどの放出信号が出され、交感神経の終末からは神経を興奮させる神経伝達物質のノルアドレナリンが分泌されて情報を伝える1)が、神経終末にノルアドレナリンが過剰に貯留している1)状態が、パニック障害などの不安障害である。ノルアドレナリンの分泌量が多いほど長期記憶は増強され、トラウマ的な経験を繰り返し思い出すことでストレスホルモンが放出され、さらに記憶を強固にする。
 その感情の記憶は、扁桃体と海馬に刻み込まれ、過去の外傷によりコード化された患者の記憶は、継続的な脳脊髄幹へ悪影響を及ぼす。
 AKは、テストしている筋肉に関する前角ニューロン集団(AMN)の反射状態としてマニュアルによる筋肉のテストの反応(抑制された、促進された、過度に)を利用し、IRTでの疾病の調整は、皮質及び(あるいは)小脳の不均衡を減少させ、そして筋肉及び姿勢のコントロールに必要な通常な筋紡錘のコントロールのメカニズムを修復する2)とされる。

3. アレルギー除去テクニック

  アレルギーの原因となるキーワードを、患者自身に思い浮かべてもらったり、口に出して言ってもらう。
 患者を、仰臥位で頚部と足を同じ方向に曲げさせ、身体全体でCカーブをつくり、足の向きと反対側の頚部側面をTL(Therapy Localization :以下TLと記述)。三角筋を使って筋肉テスト。弱ければ、距骨を四指で挟み少し牽引をかけながら距腿関節に刺激。再度、筋肉テスト。強くなるまで繰り返し行う。
次に、頚部と足を先と反対方向に曲げさせ逆向きカーブをつくり、反対側の頚部側面をTL。テストと刺激は、前述と同じ。
次に、身体はまっすぐの状態で頚部を伸展させ、頚部背面にTL。テストと刺激は、前述と同じ。
週に2度以上の割合で、1〜3か月(個人差有り)繰り返し、筋肉テストで弱化がなくなるまで行う。

4. イップスの除去

スポーツ障害で来院するアスリートの治療で、痛みのある部位に関節のずれなどの傷害はあるが、その部位を治療する前に、アレルギー除去テクニックを使用した。結果は、痛みで上に上がらなかった腕が上がることがある。曲がらなかった腰が曲がることがある。
 空手の選手が、試合で内臓破裂の負傷をして敗戦した後、負傷が癒えた後も、そのイメージが頭から離れずに、その後1年間、試合に出場できなかった。この選手に同テクニックを使用したところ、次の全日本大会でベスト16まで勝ち進んだ。
 別の空手選手は、前の試合で打撲などの負傷の上、負けたために、その相手に対する苦手意識が抜けずにイップスに陥っていたのを同テクニックで施術後、次の試合では、互角もしくはそれ以上の戦いが出来た。
 それと、高校時代に試合前の先輩の心無い一言でイップスを発症し、25年間利き腕でラケットを振れなかったテニスプレーヤーは、1回目の施術後、完璧ではないものの『最高の感覚でボールを打つことができ、25年ぶりに忘れていた感覚を取り戻せた感じ』というまで症状が軽減した。  肩に痛みがあるのに長い間無理をして投げていたため、痛みに対する恐怖心で、ボールが投げられなくなった大学硬式野球部のキャッチャーがいた。機能的な肩の痛みの原因を調整後、タオルを持って投球フォームをさせるとうまく投げるポーズをするのだが、硬式のボールを握らせると途端にフォームが崩れる。同テクニックを使用すると、ボールを握ってもタオルのときと同じフォームで投げられるようになった。  


5.  環境アレルギーの軽減

43歳女性。
数年前から、アトピー性皮膚炎。
毎年春先になるとアトピー特有の皮膚のあれとかゆみと軽い花粉症の症状(くしゃみ、鼻水)が出る。昨年8月からは、薬剤(内服薬と塗り薬を併用)に頼らないと我慢が出来ないほどひどい花粉症の症状(目の周りのかゆみ、くしゃみ、鼻水)とアトピー特有の皮膚のあれとかゆみが出ていた。
2009年1月初めから3月中ごろまで1週間に2度平均の割合で施術を行う。
施術前(2008年12月16日)と施術後(2009年3月25日)に血液検査で確認した。

6. 結果

  自覚症状は、施術を初めて1か月目に軽減し始め、毎年春先から出る前述の症状も今年は軽い。多少の自覚症状はあるものの薬剤を使うほどではないとのこと。
 血液検査の結果は、最初、カモガヤ、ブタクサ、ヨモギ、スギ、ヒノキ、ガ、カビ等の項目が特に高値を示していたが、それぞれ施術前17.40UA/mL→施術後10.90UA/mL、10.10UA/mL→5.90UA/mL、16.90UA/mL→11.00UA/mL、 31.80UA/mL→21.80UA/mL、12.20UA/mL→9.08UA/L、 9.36UA/mL→7.83UA/mL、7.20UA/mL→4.55UA/mLと軽減した。(表1)

7.考察

 O-リングテストでは、身体の異常な部分に何か物を近づけると、その電磁波という刺激を脳が感知し、その反応の結果として、筋肉に変化が起きる3)としており、また、渡り鳥は、地形や天体を見ること以外に、地磁気を脳内の磁気を帯びた細胞により感知し方位を知るとも言われる。
 バイオキネティックでは、脳幹や視床に対して刺激を送り、身体にかかっているストレス因子を取り去り神経系の乱れを正す、としている。
 また、古来日本では、“言霊(ことだま)”といい、あらゆる言葉には魂が宿るので、結婚式などのめでたい席で忌み言葉を発することや、受験前に『落ちること』を連想させる言葉を嫌ったり、森羅万象あらゆるものに神が宿っており、それを“八百万(やおろず)の神”という。
 AKでは、“コード化された記憶”が継続的な脳脊髄幹への悪影響を与えるので、それを神経系から排除するための2つの部位が足関節と上部頚椎であり4)、それらを刺激することで、筋紡錘のコントロールメカニズムを修復する2)としている。
 今回行ったテクニックの中で、アレルギーの原因となるキーワードを患者自身が思い浮かべたり、口にすることが、アレルギー除去に有効であることについても、私は、人体が感知する微弱な電磁波が関与しているのではないかと推測する。

           (表1)アレルギー血液検査項目と結果
(表1)アレルギー血液検査項目と結果
 

(参考文献)
 1)山本健一 「意識と脳」133,151サイエンス社2002
 2) Walter H.Schmitt「AKクリニカルプロトコル」4,6
 3)大村恵昭 「O-リングテスト入門」48 河出書房新社 2009
 4) 栗原修「アプライドキネシオロジーシノプシス改訂版」198,201 科学新聞社 2008



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