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徒手矯正技法による血圧の変動と左右差の改善について

1.はじめに


一般に言われている血圧に影響を与える因子として、内科的な要因として、高コレステロール、肥満、糖代謝異常、動脈硬化等の問題があり、その他に体質的な塩分感受性やインスリン抵抗性の問題、また薬物関連要因として、ホルモン剤、精神安定剤等の服用があげられる。そしてそれらの要因によって自律神経のバランスを失い、夜間血圧非低下(non-dipper)となっている場合もある。

塩分については、一般に、日本人は塩分に敏感に反応する塩分感受性が4割、反応しない塩分非感受性が6割とされているが、塩分感受性の人は、腎臓からのナトリウム排泄機能に異常が生じナトリウムが体内に蓄積されやすく、そのために血圧を上げている。

前回レポート(MANUAL MEDICINE Vol.59参照)で、TFPやIRTの施術を106名の患者に対して行い、血圧の左右差を縮めて高すぎる血圧を下げるのに一定の効果があることを検証したが、今回は、徒手矯正技法による前述の効果の継続性を確認するべく、長期間の治療結果を記録し、検証した。

また、幸いにも、IRT(Total Body Modification)には、栄養素因子に対して働きかけたり抗薬物のテクニックがあるので、今回は、それも使用した。



2.方法

前回の結果により血圧の左右差は、高血圧、過去の心臓手術、悪性腫瘍等の手術、ホルモン関連の薬物の服用、また精神的なストレスにより影響を多く受けることが推測されたので、出来るだけ一般的な数値を得るため、それらの既往症がない数名の患者を前回と同じテルモの電子血圧計P2000(アームインタイプ)で左右の上腕部の血圧と心拍数を、測定した。

その中から結果的に長期間測定できて、なおかつその期間に重大な精神的なストレス(家族の死、職・住環境の変化)がなかったと思われる患者男女各1名をピックアップして、データの解析をおこなった。

治療内容は、主訴に対しての治療(主にディバーシファイドでの矯正)を行いつつ、血圧に働きかける治療として、グラベラ、肋骨調整、SOTの冠状動脈調整、IRT、TPF、そして眼球運動や栄養素の付加(サプリメントをガラス瓶に入れて対象臓器に数分当てる)を行った。

治療前に血圧測定して、左右差が、血圧10mmHg以上か心拍数10回以上の場合、1日2回を限度として、再検査の上、再調整を行った。






3.患者データ

・Wさん 69歳 女性

職業:主婦の

当初の主訴:左足ふくらはぎの痛み

既往症:特になし

常時服用薬物:なし

測定日時・回数:平成17年10月17日~平成18年11月6日(50回)

観察と治療:測定当初、血圧の左右差も大きいし、拡張期の血圧は高いことと心拍数が多いことも気になった。肋骨のずれが認められたので、肋骨の調整を主に行った。随時、筋力検査で不足の認められた栄養素の付加療法を併用。また、冠状動脈調整と眼球運動も随時行った。最初の7回は3,4日おきに、あとはほぼ1週間毎に定期的に施術を行った。


・Kさん 27歳 男性

職業:会社員

当初の主訴:草野球の投球による右肩痛

既往症:特になし

常時服用薬物:特になし

測定日時・回数:平成18年3月10日~平成18年11月2日(34回)

観察と治療:測定当初、血圧の左右差が大きく、血圧も高め、特に拡張期血圧が高いことが気になった。自覚症状はあまりないようだが、眼球の動きが悪い。

職場でパソコンを見る機会が多く、営業で車の運転をすることも多いという。ドライアイの症状がある。冠状動脈、頚動脈の圧迫が認められたので、その解除と眼球運動の促進を主に行った。施術の間隔は、基本的に1週間に一度だが、症状や仕事の都合などで3日後であったり、2週間後であったりした。



4.測定結果




5.治療の効果についての考察

・wさん

心拍数は、最初100回/分以上あったが、5回目から徐々に収まり、10回目以降は90回/分以上になるこたはなくなり、左右差は、12回目以降、10以上になることはなくなった。

血圧は、最初、高めで、収縮期血圧、拡張期血圧ともに、差が10mmHg以上のことが多く、20mmHg台や、最悪事は31mmHg差があった。

20回目までは、調整後も左右のバランスが取れないことが多かったが、それ以降は、日によって波があるものの数値はずいぶん良くなってきた。特に拡張期血圧差は、28回目以降、10mmHg以上になることはほとんどなかった。

あと、左右血圧の平均値を10回分ずつまとめて、平均をとってみると回数を追うごとに数値が下がっており、最初の10回分の平均値と最後の6回分の平均値の差は、拡張期血圧-11mmHg、収縮期血圧-7.1mmHg、心拍数-12.7回であった。






血圧は、収縮期、拡張期ともに、一時期(11~20回目)少し上がっているが、その後は、回を追うごとに、確実に下がっている。

心拍数は、最初高かったのが、11回目以降から正常範囲内にまで下がり、その後はほぼ安定している。


・kさん

最初のうちは、左右血圧差が大きく、収縮期、拡張期ともにバラつきがあった。また、収縮期、拡張期ともに血圧が高く、高血圧と呼ばれる収縮期140mmHg以上、拡張期90mmHg以上の数値を示していた。冠状動脈、頚動脈に圧迫があったのでそれらを解除したり、TPFを行うと、左右差はずいぶん改善されるが、3,4日~1週間後の再来院時にはまた左右血圧差は大きくなっていた。

11回目以降から徐々に、その日に改善されたものが次回も良い状態のままの確率が高くなってきた。

また高血圧領域にあった数値も、収縮期、拡張期ともに、10回目以降、ほとんど測定されなくなり、全体的に血圧が低下してきた。

ただ、血圧は、日によって波があるものの平均していい方向に向かっているにもかかわらず、最初のうち問題のなかった心拍数が、特に17回目以降、左右でバラつきが出てきた。

32回目以降は、血圧の高さ、心拍数、それに左右のバランスもとれてきた。






血圧は収縮期、拡張期ともに、回を追うごとに確実に下がっている。

心拍数は、多少の上下はあるが、少し上がってきている。(正常範囲内)


6.結論と今後の課題

今回の臨床結果により、徒手矯正技法によって、継続的に、血圧の左右差の改善と高すぎる血圧や心拍数を下げるのに、一定の効果があるということが実証できたと思う。

しかしながら、今回最初に臨床データを取るための患者を選ぶ際に排除した既往症のある患者へのアプローチについては、今後もライフワークとして、研究を続けていかなければならないと思っている。また次回は、高血圧と並んで苦しんでおられる方の多い成人病のひとつ、糖尿病に対して、徒手矯正技法がどこまで効果を上げることがを検証してみたい。


参考文献

・標準整形外科学(第5版)/広畑和志ほか 医学書院/1993

・Applied Kinesiology  Synopsis/デービットS・ウォルサーD.C著 科学新聞社刊

・日本病態栄養学学会会誌8(3)大学生における24時間血圧モニターによる塩分感受性と夜間血圧低下(dipper)の評価ー日常又は外来レベルでの24時間

血圧モニター 名取順子(甲子園大学栄養学部)他著

・Healthクリニック/高血圧ライブラリ(H18.11.8) http://www2.health.ne.jp/library